日本は1989年の金融バブル崩壊以降、約30年間デフレに悩まされてきました。この間、物価はほとんど上昇せず、非正規雇用の増加により日本人の年収も伸び悩み、収入格差が拡大しました。アベノミクス以降、企業業績は回復したものの、バブル崩壊の教訓から企業は内部留保を優先したためです。
近年、日本がデフレからインフレに転じた主な要因は、国内外の複合的な影響です。具体的には、新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱、ウクライナ危機に伴うエネルギー価格の高騰、円安の進行、そして政府の金融緩和政策などが挙げられます。特に円安の影響による輸入物価の上昇を受け、企業が価格転嫁を行ったことで物価が上昇し、デフレからインフレへと移行したと考えられます。
インフレ時代は物価上昇によりお金の価値が下がるため、従来の貯蓄だけでは資産が目減りする可能性が高くなります。そのため、インフレに負けない資金運用が重要です。資産を効果的に増やすには、適切な運用戦略が不可欠となります。
私の世代は、高度経済成長期のバブル絶頂期とその崩壊後の長期デフレ時代を経験しました。今後の新たなインフレ時代がどのように展開していくか、その変化を楽しみたいと思っています。
これからも続くであろうインフレ時代を豊かに過ごすためには、インフレに強い資産への分散投資が鍵となります。本記事では、インフレ時代に適した資金運用について考察していきます。
資金運用の注意点
日本人は、欧米に比べてローリスク・ローリターンを好む傾向が強いです。確かに、シニア世代では年齢とともに、預金や国債といった安全資産へのシフトが重要になります。
しかし、近年の日本のインフレ率は年数%で推移しています。日銀のインフレ目標は年2%ですが、世界的なインフレ傾向もあり、この目標はここ数年達成されています。今後もこのインフレ傾向が続くと予想されます。
インフレ時代では物価が継続的に上昇するため、現金保有自体がリスクとなる可能性があります。そのため、以下の点に注意を払うことが重要です。
現金や預金へのこだわり
日本人、特にシニア世代では、大手金融機関の普通預金や定期預金の利用度が非常に高いと思われます。しかし、普通預金はインフレによって価値が目減りしやすく、低金利の定期預金はインフレ率に追いつかず、実質的な損失となる可能性があります。
投資リスクへの過度の恐れ
シニア世代の中には、株式投資を過度に恐れている人が少なくありません。これは、バブル時代に投資で大きな損失を被った経験がトラウマとなっているためです。しかし、インフレ時代には、ある程度の投資リスクを負うことが必要となります。
株式投資に集中しすぎない
特定の商品への集中投資は、大きな利益をもたらす可能性がある一方で、重大な損失のリスクも伴います。シニア世代にとっては特に、分散投資を通じてリスクを軽減することが重要です。
具体的な運用方法
ここでは、定期預金や国債などの安全資産を除き、より積極的な資金運用方法を詳しく考察します。これらの方法は、インフレ時代により高いリターンを目指す投資家にとって魅力的な選択肢となります。ただし、高いリターンが期待できる一方で、リスクも相応に高くなることに注意が必要です。
以下では、筆者がすすめるシニア世代における株式投資、投資信託、金など、様々な運用方法についてを解説していきます。
株式投資
シニア世代に特におすすめなのが高配当株投資です。多くの年金生活者は、年金収入だけでは足りず、預貯金を取り崩しながら生活しています。70歳以上でも元気なうちはアルバイトなどで働くことができますが、徐々に難しくなる可能性が高まります。そこで、副収入となる株の配当が魅力的です。さらに、新NISAの成長枠を活用すれば非課税で運用できます。具体的な運用方法については、以下ブログで紹介した記事を参考にしてください。
投資信託
新NISAのつみたて投資枠を活用し、オールカントリー(全世界株式)やS&P500を定期的に購入し、預金から投資信託へシフトすることをおすすめします。若者世代は積立期間が長いため、より大きな金融資産を築きやすい利点があります。一方、シニア世代も過去10年で平均5%以上の運用成績を残しているため、積立枠の利用はインフレ時代においても賢明な選択といえるでしょう。
なお、資金の必要性が生じた場合には、通常数日から1週間程度で引き出すことができ、残った資金の運用も可能です。(ネット証券会社により、若干引き出す期間の違いが生じます。)
金(ゴールド)
金相場とインフレには密接な関係があります。インフレが進行すると経済の不安定さが増し、その結果、安全資産としての金への需要が高まり、価格が上昇します。歴史的に見ても、金はインフレ期において資産を守る効果的な手段として機能してきました。
金に投資するETF(上場投資信託)は、手軽に金投資を始められる方法です。ETFは主に、日本の投資信託、日本のETF、米国のETFの3種類があります。SBI証券などの大手証券会社でも取り扱っているため、利用者はより簡単に始めることができ、新NISAも活用できます。金投資に興味がある方は、以下のサイトが参考になるでしょう。
私自身は現在、純金積立を実践しています。近年の金相場上昇により、その実質価値が高まっているのを実感していますね。資金に余裕がある方は、金地金の保有も検討に値するかもしれません。
その他
- ロボアドバイザーの活用:近年、ロボアドバイザーの利用が増加しています。このサービスは、AI技術とアルゴリズムを用いて、投資家個々の運用目標とリスク許容度に合わせたポートフォリオを自動構築します。長期・分散・積立という投資の基本原則に基づいて運営され、その効果は実績として確認されています。さらに、自動リバランス機能により、投資家自身が定期的にポートフォリオを見直す手間が省けます。
- インフレ連動ファンド:物価上昇率に連動して利息が増える債券で、インフレリスクを抑えることができます。これらのファンドは、インフレ率が上昇すると、それに応じて投資家への支払いも増加します。例えば、物価連動国債(TIPS)や物価連動社債などがあります。これらの商品は、インフレによる資産の目減りを防ぐだけでなく、実質的な購買力を維持するのに役立ちます。
重要な注意点
インフレ時代に効果的な資金運用を行うには、以下の重要な点を常に意識する必要があります。これらを十分に理解し実践することで、インフレによる資産の目減りを防ぎ、さらには資産を成長させることができるでしょう。
リスクとリターンのバランス
高リターンの投資には高リスクが伴います。自身の財務状況とリスク許容度を慎重に評価し、適切なバランスを取ることが重要です。ハイリスクとローリスク商品を組み合わせることで、リスクを管理しつつ、適度なリターンを目指せます。
長期的な視点の重要性
投資成功の鍵は、短期的な市場変動に一喜一憂せず、長期的な視点を持つことです。日々の株価変動に過度に反応せず、経済の長期トレンドや企業の成長性を見極めましょう。また、複利効果を最大限に活用するためにも、長期投資の姿勢が有効です。
分散投資の実践
「卵は一つのかごに盛るな」の格言通り、投資の分散は重要戦略です。異なる資産クラス、地域、産業セクターに投資を分散させることで、特定分野のリスクを軽減し、安定したポートフォリオを構築できます。
定期的な見直しと調整
投資環境は常に変化するため、定期的なポートフォリオの見直しと調整が重要です。ただし、頻繁な売買は取引コストを増加させ、長期的なリターンを低下させる可能性があるため、バランスを取ることが大切です。
最後に
我々日本人は、デフレ社会という長いトンネルを抜け、物価が緩やかに上昇するインフレ社会をしばらく経験すると予想されます。これに伴い、給与や年金も上昇し、より豊かさを実感できる社会が求められています。
しかし、このインフレ社会では格差がより顕著になる可能性もあります。給与や年金がインフレに追いつかず、生活が厳しくなる恐れがあります。特にシニア世代では、年齢とともに年金生活者が増加します。現在、年金はマクロ経済スライド調整により、実質賃金の伸び率を下回るよう抑制されています。
これからインフレ時代が続くと、現金の価値が目減りしやすくなります。そのため、この時代こそ、より適切な資金運用が不可欠となります。安全性を確保しつつ、多様な資産に分散投資を行い、前述の運用方法を考慮しながら、インフレに負けない資産形成を目指しましょう。
ただし、投資は自己責任であり、元本保証がないため、自身のリスク許容度を慎重に見極めることが重要です。