最近の日本株式市場は、様々な要因が絡み合い、乱高下を繰り返しています。シニア世代で新NISAを活用し、最近投資を始めた方は、とても不安になると思います。
下落幅は1987年10月19日の「ブラックマンデー」の翌日(3,836円安)を超え、過去最大となりました。連日の大幅な下落で、日経平均は7月11日に付けた史上最高値4万2,224円から1カ月も経たないうちに1万円以上下落し、8月5日の株価終値は今年に入って最も低い3万1,458円まで急落しました。(ただし、下落率としては「ブラックマンデー」に次ぐものでした。)
その後、日経平均は6日に大幅に反発し、9日の終値は3万5025円まで戻りました。
今回の株価の乱高下は、長い間投資経験があっても、とても不安になりましたね。しかし、多くの日本企業の業績は、良い状態が続いているので、いずれは4万円台に戻るものと考えています。
この間の為替レートは、7月3日に1ドル=161円台後半を付けてから、8月5日の為替市場で一時1ドル=141円台後半を付け、7カ月ぶりの円高水準となりました。しかし、8月6日以降の株価の回復とともに円安が進み、9日には1ドル=147円前後に戻りました。
今回の記事では、長い投資経験の中でも経験したことのない株価や為替の乱高下について、考察してみたいと思います。
乱高下の要因
今回のようなパニック売りが生じた最大要因としては、専門家の多くが「急速な円高」と「米国の景気後退懸念」されています。しかし、下落の原因が一つに特定できない中で急激に株価が動いたため、市場が大きな不安に駆られたと考えられます。日本株式市場の乱高下の主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。
日銀の利上げ決定
日本銀行が7月31日終了の金融政策決定会合で、大方の予想を裏切り、政策金利を0.25%程度に引き上げる利上げを決定しました。
その後の記者会見で、植田和男総裁が政策金利について「0.5%を壁として意識していない」「(利上げしても)景気に強いブレーキがかかるとは考えていない」など、予想以上に金融引き締めの発言をすると、市場の雰囲気が一変しました。この発言を契機に、前述のような円高とともに、急激な株安が進みました。
しかし、8月6日から7日にかけて、財務省、金融庁、日本銀行の三者会合と翌日の日銀・内田副総裁の講演で、「株価や為替相場が不安定な状況で利上げは行わない」との方針を明示したことで、円安継続の見方が広がり、市場は鎮静化しました。
このような状況から、予想外の政策金利の引き上げが円高と株安を招いた要因になったことは間違いなさそうですね。
米国景気後退懸念
8月2日発表の米国7月雇用統計で失業率が4.3%まで上昇したこともあり、米国では9月18日終了のFOMC(連邦公開市場委員会)で通常の倍となる0.5%の利下げがあるのではないかという見通しが高まっています。これにより、経済刺激策が強化される可能性がありますが、同時に金融市場に対する不安も広がりました。
FRBが大幅利下げに踏み切ると、日米金利差の縮小で円高がさらに加速する恐れがあります。このため、為替市場における円の価値が上昇し、輸出企業の収益に影響を与える可能性があります。
これらの要因が日本株の大きな下げにつながったものと考えられています。特に、輸出型企業や金融機関への影響が懸念されており、海外投資家たちは慎重な姿勢を崩していません。
海外投資家の影響力
日本株式市場の7割程度が海外投資家で占められています。安定した円安の状況下では、ヘッジファンドなどの機関投資家たちは大量の投資資金で積極的に日本株への投資を行っていました。しかし、一旦円高に転じると、利益確定や損失の拡大を防ぐために日本株の大量売りを行うことがあります。
今回は、日銀の利上げが決定し急速な円高が進んだため、日本株が大量に売られ、急速に株価の下落が生じたものと思われます。その一方で、「株価や為替相場が不安定な状況で利上げは行わない」との方針が日銀・内田副総裁により明示されたため、海外投資家の安心感を呼び、円高と株安は収まり、次第に円安・株高へと移行しつつあります。
中東情勢の戦争拡大への懸念
イスラム組織ハマスの最高幹部であるハニヤ政治局長が7月31日に、イランの首都テヘランの宿泊先で殺害されました。これにより、イランがイスラエルへの報復攻撃を行う懸念があります。
中東での紛争地域が拡大し、イランとイスラエルの軍事的対立が本格化すれば、原油供給に支障が出る可能性があります。その結果、原油価格が大きく上昇し、米国および世界経済の悪化懸念を増幅する可能性があります。これが世界的な株価の調整を促し、足元で不安定化する世界の金融市場の一層の動揺につながるかもしれません。
日米など主要国で株価の大幅下落が生じる中、金融市場は地政学リスクに注意する必要があります。中東地域の緊迫化が一段と強まる可能性が高まっているためです。地政学的な緊張が高まることで、投資家のリスク回避意識が高まり、市場が不安定になりがちです。
有事の懸念が高まるにつれて、海外投資家は特に株を売って債権や金を購入する傾向が強まりますね。
シニア世代がとるべき投資方針
シニア世代の投資では、このブログで何度も説明した新NISAを活用した「長期・分散・積立」が基本です。大きな株価の変動があっても、長期・分散・積立投資はダメージが少なく、長期視点で継続的に資金運用を行うことが可能です。
このような投資を継続するためにも、以下の「方策」を理解することが重要です。
r >gへの理解
ピケティの著書「21世紀の資本論」では、「r>g」という不等式が必ず成立するとされています。「r」は資本収益率、「g」は経済成長率を示します。この不等式は、18世紀まで遡ってデータを分析した結果、資本収益率「r」が年に約5%である一方で、経済成長率「g」は1~2%程度しかなかったことを示しています。
ここでいう資本収益率とは、資本の平均年間収益率で、利益、配当、利子、賃料などの資本からの収益を、投資額で割った割合を表します。例えば、100万円を投資して10万円の収益を得た場合、資本収益率(r)は10%となります。また、経済成長率とは、前年度と比較してGDPがどれだけ増加したかをパーセンテージで表します。
つまり、この不等式が意味するのは、資本への投資によって得られる利益成長は、経済成長率(g)を常に上回るということなのです。しっかりした長期・分散投資で投資収益率を伸ばすことが安定した資金運用につながります。
投資は余裕資金で
投資目的や目標を明確にしたうえで、必ず余裕資金で行う必要があります。投資の際には、感情に左右されず、冷静に判断することが重要です。余裕資金であれば、仮に大きな損失が出てもすぐに損切りせずに継続して保持することも可能です。長期間保有すれば、資産を大きく増やすこともできます。
日本企業の業績が長期間にわたり堅調であれば、株価が一時的に下がっても回復が期待できます。これにより、投資家は長期的に安心して投資を続けられます。さらに、堅調な業績は配当金の支払いも期待でき、長期的な資産形成に寄与します。
余裕資金とは、普段の生活や将来の支出を除いた使わない資金を指します。具体的には、家賃、生活費、教育費、医療費などを差し引いた余剰資金です。これを投資に使うことで、リスクを抑えつつ長期的な資産形成が可能です。
投資は、あくまでも自己責任が求められます。良い時もあれば、予想外に損失が出る場合もありますね。そのため、投資は余裕資金で行うことが原則です。
最新の情報収集
情報は生ものです。そのため、常に最新の情報を収集し、分析することが重要です。例えば、世界経済の動向、企業の業績、政策決定など、多岐にわたる情報を取り入れる必要があります。これにより、変化する状況に迅速に対応し、最適な戦略を立てることができます。
また、ニュースや経済指標だけでなく、専門家の意見や業界の報告書なども参考にすることで、より深い理解が得られるでしょう。これらの情報源は、それぞれ異なる視点や分析手法を提供し、情報の多面性を理解する助けとなります。
これにより、情報を多角的に捉え、より正確な判断ができるようになります。さらに、情報の信頼性を確認するために複数の情報源を比較検討することも欠かせません。一つの情報に依存するのではなく、多様な情報を組み合わせることで、より包括的で信頼性の高い結論を導き出すことができます。
リスク管理
自分のリスク許容度を把握し、それに合った投資を行うことが非常に重要です。投資を始める前に、まず自分がどれだけのリスクを許容できるかを理解し、それに応じた投資戦略を立てることが成功への第一歩です。
分散投資では、市場環境や投資家自身の状況の変化に応じて資産配分を定期的に見直すことが必要です。これにより、特定の資産に対するリスクを軽減し、全体のリスクを分散させることが可能になります。
市場の動向は常に変わるため、それに対応した資産配分を維持する必要があります。特に今回のように株価の乱高下で特定の資産が大きく変動し、ポートフォリオ全体のバランスが乱れることがあります。こうした時こそ、リバランスを行うことでリスクを管理し、リターンを高めることができます。
株式の乱高下があると資産配分が崩れがちです。株式市場が落ち着いた時点でリバランスを実施することが大切ですね。
まとめ
日本の株式市場の乱高下は、世界経済の不確実性や、地政学的リスク、金融政策の変動、企業業績の予測困難性、さらには自然災害など、様々な要因が複雑に絡み合って発生しています。これにより、投資家や企業は市場の動向を予測することが一層難しくなっています。そのため、投資家や企業は、これらの要因をしっかりと理解し、適切な対策を講じる必要があります。
8日、宮崎県で震度6弱の地震が発生しました。気象庁は南海トラフ地震の想定震源域では、大規模地震が発生する可能性が普段と比べて高まっているとしています。南海トラフ地震につながらないことを心から祈っています。
特に、長期的な視点を持つことは、短期的な市場の変動に惑わされず、安定した投資戦略を維持するために不可欠です。また、分散投資を行うことは、リスクを分散し、特定の資産クラスに依存しないようにするための重要な手法です。さらに、情報収集を徹底することは、最新の市場情報や経済指標を把握し、適切なタイミングでの意思決定を支援します。最後に、リスク管理を怠らないことは、予期せぬ市場の変動に対しても冷静かつ迅速に対応できるようにするために不可欠です。
これらの戦略を継続的に実行することが、株式市場での成功への重要な鍵となります。
《 参考情報 》