資産配分編では、投資対象となる資産の種類と、それぞれの割合の決定方法について詳しく説明しました。これにより、自分の投資戦略を立てる方法や、どの資産クラスに重点を置くべきかを理解できたと思います。シニア世代の投資初心者には少し難しい面もありますが、しっかりとした資金運用を続けるために理解を深めることが大切です。
今回の記事では、資産を構成する株や投資信託、債券などの具体的な金融商品の組み合わせの割合であるポートフォリオについて、さらに深く考察してみたいと思います。特に、現代ポートフォリオ理論(MPT)は、資産をどのように分散させるかの重要な要素であり、リスク管理の観点からも非常に重要です。
資産配分の具体的な実践方法としては、以下の方法が考えられます。それぞれの方法には独自の良さがありますが、自分の投資目標やリスク許容度、期待リターンなどに応じて選択または組み合わせることが重要です。
現代ポートフォリオ理論とは
現代ポートフォリオ理論(MPT)とは、異なる資産を組み合わせることで、リスクを抑えながら、期待リターンを最大化する理論です。MPTは、1952年にハリー・マーコウィッツ氏によって発表された、金融資産への投資比率を決定する理論です。
主な特徴
- ポートフォリオ全体の期待収益とリスクの考慮: 個々の資産ではなく、ポートフォリオ全体の期待収益とリスクを考慮して投資判断を行います。
- 分散投資の重要性を提示: 異なる資産に分散投資することで、リスクを抑制しながら期待収益を向上させることができます。
- 効率的フロンティアの概念: 期待収益とリスクのトレードオフ関係を示す効率的フロンティアという概念を導入しました。
主なポイント
- リスクとリターンの関係性: 投資にはリスクとリターンのトレードオフが存在し、高いリターンを追求するためには、高いリスクを受け入れなければならないという関係性があります。
- 分散投資: リスクを低減するために、異なる資産や資産クラスに投資を分散させることです。複数の資産に分散投資することで、ポートフォリオ全体のリスクを抑制することができます。
- 効率的フロンティア: リスクとリターンを最適なバランスで実現するポートフォリオの組み合わせを、効率的フロンティアと呼び、リスクとリターンの関係を示す曲線です。このフロンティア上にあるポートフォリオは、同じリスクレベルで最も高いリターンをもたらす組み合わせとされています。
ちょっと分かりにくい考え方ですね。無論、こうした理論を知らなくても問題なく投資はできますが、この考え方を理解することで金融投資の本質への理解が深まります。
メリット
- 科学的な根拠に基づいた資産配分が可能になります。
- リスクを抑制しながら、期待リターンを追求することができます。
- 投資家自身のリスク許容度に合わせて、資産配分を調整することができます。
デメリット
- 過去の市場データに基づいているため、将来の市場環境を正確には反映できていません。
- 投資家がMPTを理解して、活用している人はそれほど多くないと思われます。
- 分散投資にはそれなりのコストがかかります。
リスク許容度の把握
投資家自身のリスク許容度とは、投資において許容できる損失の大きさです。リスク許容度は、年齢、収入、資産状況、投資経験などによって異なります。
資産クラスの選定
一般的には、大別して以下の5つの資産クラスを投資対象として選びます。
- 株式: 最も高い期待リターンが期待できる資産クラスですが、リスクも最も高い資産クラスです。
- 債券: 株式よりもリスクが低い資産クラスですが、期待リターンも低くなります。
- 投資信託:一般的にインデックスファンドが推奨されており、長期投資の利回りが高水準にあります。
- J-REIT: 株式よりもリスクが低くく、債券よりもリスクが高い資産クラスで、市場で簡単に売買できるため、実物の不動産より流動性が高いというメリットがあります。
- 金: インフレや経済不安の際に価値が上昇する資産クラスですが、期待リターンは低くなります。
期待リターンとリスクを推定
各資産クラスの期待リターンとリスクは、過去の市場データに基づいて推定することができます。過去の市場データは、金融庁や証券会社などのウェブサイトから入手することができます。
最適な資産配分の決定
現代ポートフォリオ理論に基づいて、期待リターンを最大化し、リスクを最小化する最適な資産配分を決定します。資産によってリスクの大きさは異なりますが、リスクの大きさはリターンと正比例します。
分散投資は、ポートフォリオのリターンを維持しつつリスクを減らす投資法です。2つ以上の資産が正の相関がある場合、片方の資産が上がるともう片方も上がります。逆に負の相関がある場合は、一方が上がるともう一方が下がります。これは統計学的な相関関係を示しています。
50歳以降のシニア世代におすすめのポートフォリオは、以下のとおりです。現時点では、最善の資産配分の一つであると考えています。
ライフサイクル型の資産配分
シニア世代において、ライフサイクル型資産配分とは、年齢やライフステージに合わせて資産配分を調整する方法です。この資産配分は、「現代ポートフォリオ理論」に基づいたものです。基本的な考え方は、以下の年代別資産運用を参考にしてください。
ここでは、長期・分散・積立の新NISAを前提としたシニア世代の方が投資で成功確率を高めるための方法を考察します。
投資初心者の方へ(オルカンと無リスク資産)
投資初心者におすすめの方法として、リスク資産である「全世界株式(オールカントリー)インデックス」に投資し、年齢やリスク許容度に応じて現金や国債などの無リスク資産との比率を調整する手法です。この方法は、広範な市場に分散投資できるため、リスクを軽減しつつリターンを狙えます。
具体的には、若い投資家はリスクを取る余地が大きいため、リスク資産の比率を高めに設定することが一般的です。一方で、年齢が上がるにつれて無リスク資産の比率を増やし、ポートフォリオ全体のリスクを低減させることが推奨されます。
この場合、新しいNISA(少額投資非課税制度)のつみたて枠を利用することが最も有効な方法だと考えられます。新NISAのつみたて枠を活用することで、税制上の優遇措置を受けながら長期的な資産形成を進められます。
投資好きな方へ(自ら考える分散投資)
個別株投資は最もハイリスク・ハイリターンの投資方法なので、リスクヘッジを心掛けましょう。そのためには、分散投資が有効です。この投資方法では、年齢やリスク許容度に応じて株式の割合を決め、債券、投資信託、J-REIT、金などに分散投資します。分散投資を行うことで、一つの資産の価値が大きく下がった場合でも、他の資産がそのリスクをカバーする可能性が高まります。
もちろん、現金などの無リスク資産を一定の割合で持つことも重要です。特に、資産を長期的に活用するために、後期高齢者以上の方は無リスク資産の割合を増やすべきです。無リスク資産の保有は、急な出費や市場の変動に対する保険として機能します。
さらに、ポートフォリオの資産配分を目標の割合に戻すために、定期的に資産を売買してリバランスを保つようにしましょう。リバランスを行うことで、市場の変動に柔軟に対応し、長期的な資産の安定成長を目指すことができます。
投資が苦手な方へ(ロボアドバイザーの活用)
ロボアドバイザーは、人工知能を用いて資産配分を行うサービスです。具体的には、投資家がリスク許容度や投資目的を設定すると、その情報に基づいて最適な資産配分を提案してくれます。ロボアドバイザーを利用することで、複雑な投資判断を自動化し、効率的に資産を運用することが可能です。
ロボアドバイザー大手のWealthNaviの無料診断のいくつかの質問に答えるだけで、あなたに最適なポートフォリオが提案されます。診断結果に基づき、自動的に資金運用してくれるため、投資が苦手な方でも安心して投資を始めることができます。
また、ロボアドバイザーは定期的に資産配分のリバランスも自動で行ってくれます。市場の変動や資産価値の変化に応じて、ポートフォリオを最適な状態に保つための調整を自動で実施します。手数料は若干高いですが、資産配分が苦手で投資に時間をかけたくない人には利用価値が高いと思います。
定期的な見直し
ロボアドバイザーは自動でリバランスを行いますが、個人で分散投資している場合、市場環境や投資家自身の状況の変化に応じて資産配分を定期的に見直すことが重要です。市場の動向は常に変わるため、その時々の状況に合わせて最適な資産配分を維持する必要があります。これにより、リスクを管理し、期待されるリターンを最大化できます。
保有資産のリバランスを行うのは、個人ではなかなか大変ですね。私の場合は、リスク資産と無リスク資産に大別して、バランスが崩れないように見直しを行っています。余裕資金は、新NISAを活用した個別株や債券の購入に充てています。
一般的には、年に1回程度資産配分を見直すことが推奨されていますが、大きな市場の変動や個人のライフイベント(結婚、出産、退職など)があった場合は、より頻繁に見直すことも考慮すべきです。
最後に
異なる資産を組み合わせることで、全体のリスクを低減しながらリターンを向上させるポートフォリオ効果が得られます。特に負の相関関係がある資産を組み合わせると、リスクが大幅に低減されます。例えば、株式と債券を組み合わせることで、株式市場が低迷している時でも債券の安定したリターンが全体の損失を補うことができます。
すべての投資家が同じ市場ポートフォリオ(インデックスファンド)と無リスク資産の組み合わせを持つことで最適な投資結果を得られるという理論は、現代ポートフォリオ理論に基づいています。この理論により、投資家はリスクとリターンのバランスを最適化することが可能です。
現代ポートフォリオ理論(MPT)は、個人の投資家だけでなく、金融機関やファンドマネージャーも資産配分を決定する際に広く利用されています。近年では、MPTを拡張したモデルも開発されており、より複雑な市場環境に対応した資産配分が可能になっています。例えば、グローバルな市場の変動や新興市場の成長を考慮に入れた資産配分戦略が登場し、投資家に多様な選択肢を提供しています。
今回は、投資の基本となる現代ポートフォリオ理論(MPT)を考察しました。少し難しく感じられたかもしれませんが、投資に非常に参考になる理論だと思います。
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