はじめに
近年、シニア世代の方々が以前に比べ資産運用に積極的に取り組むようになりました。これには、長期的な視点で見たときに、子育てや住宅ローンの支払いが終わることが多いこと、老後の生活資金を確保する必要があること、そして良好な株式環境への変化が背景にあると思われます。しかし、資産運用にはリスクがつきまといます。それでも、リスクを抑えた運用方法を学ぶことで、シニア世代の方々も多様な資産運用に積極的に取り組むことができます。
一方、政府が新しいNISA制度を2024年から導入するため、株式投資や投資信託などを、より一層促進している一面もあります。NISA制度は、一定額までの投資について、税金がかからないというもので、シニア世代を含め、多くの人々がその恩恵を受けることが可能となります。
また、日本企業の好調さも、シニア世代にとって良いニュースです。好調な企業は、株価が上昇する可能性が高いため、投資先として選択肢に入れることができます。
以上のような背景を踏まえ、40年近い投資歴持つ私が、シニア世代が今後どのような投資判断をすればいいのかについて、考察してみたいと思います。
株式環境の変化
私が、株式投資を始めたのは1980年代の中ごろで日本経済も絶好調の時でした。この時代は、企業の業績も良く、株価も順調に推移していました。その後、89年にバブル崩壊が起こり、日本経済の低迷が長く続くことになります。その間、山一證券の経営破綻、ITバブル、リーマンショックを経て東日本大震災と続きました。日経平均株価は、89年に最高値約39000円をつけた後、2009年に約7000円の最安値となってしまった。この間は、デフレ時代が続き、いわゆる失われた20年もしくは30年といわれ、私の株価も絶頂期の5分の1程度になっていました。
そして、状況が大きく変わったのが2012年11月から始まった異次元の金融緩和です。いわゆるアベノミックスです。その間の株価は、当初1万円前後から大きく上昇し2018年には日経平均が2万3千円をつけました。この間は、私は公務員を辞めちょうど学生の時でした。両親の介護もあり、それなりに大変でしたが、個別株を中心に売買を繰り返し、比較的大きな利益を得ることができました。大学、大学院の学費もそれなりにかかったのですが、それも利益で十分カバーでき、大きく資産を増やすこともできました。その後、この確定した利益をオリックス銀行の定期預金をはじめ、WealthNavi、アメリカのインデックスファンド(S&P500、全米株式ファンド、全世界株ファンド)などに投資をして、現在に至っています。
一方、2020年から始まったコロナパンデミックにより、一時期株価が急激に下がりましたが、各国での公的資金導入により、一気に回復してきました。しかし、各国では、以下の理由などによりインフレ状況にあります。
- 新型コロナウイルスのパンデミックによるサプライチェーンの混乱
- ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー・食料価格の高騰
- 各国の金融緩和政策によるお金の供給量の増加
インフレを抑制するため、アメリカでは2022年に政策金利を計画的に0.25から4.50に引き上げ、2023年5月時点で5.25まで引き上げられました。欧州でも、同様にゼロ金利政策から3.75まで引き上げられました。
一方、日本ではゼロ金利政策が現在でも継続中で、日銀は金利の引き上げにはとても慎重なスタンスをとっています。しかもインフレ率が他国から比べそれほど高くなく、2%~3%程度に抑えられています。その上、円安傾向が続いているため、バフェットなどの海外投資家が企業業績の良い日本に投資しており、今後ともこの傾向が続く可能性が高いと考えています。
日本企業の好調さ
最近の日本企業の好調さに注目が集まっています。企業の業績が好調であれば、株価も上昇することが期待されます。シルバー世代の方々にとっては、株式投資を通じて、企業の好調さにあやかることができます。ただし、企業の業績は常に安定しているわけではありません。投資の際には、企業の業績や市場環境に十分に注意を払う必要があります。
こうした業績の良い企業の株価が好調な要因は、次のようなことが考えられます。
- 海外投資家の積極的な投資と自社株買い
- 日米政策金利の違いによる円安
- バフェットによる商社株の大型投資
- 生成AIによる半導体企業等の業績大幅アップ
依然、東証上場企業のPBR1倍割れの企業が半数近くあります。現在、日本政府は企業の収益力向上や財務体質強化を図るため、1倍割れのPBRの改善を求めています。このため、企業は収益力向上や財務体質強化のために、新規事業展開やM&A、コスト削減の取り組みに加え、自社株買いの継続や生成AIを活用した企業改革が進むものと考えています。
なお、PBRとは、株価純資産倍率のことで、株価を純資産で割った値です。PBRが1倍以下の場合は企業の収益力や財務体質の改善が求められています。
新しいNISA制度
新しいNISA制度は、投資家が株式や投資信託を買って売る際にかかる税金を非課税にする制度です。これにより、投資家が長期的な視点で資産運用を行うことができ、資産形成につながると期待されています。シルバー世代の方々にとっては、老後の生活資金を確保するための資産運用に適しています。ただし、株式や投資信託にはリスクがあるため、投資のリスクについて十分に理解し、運用にあたってはリスク分散を行うことが重要です。
【新たなNISA制度の改正ポイント】
制度の無期限化(恒久化)
これまでは、一般NISA、つみたてNISAともに一定期間のみ利用できる制度でした。改正により、期間がなくなり、いつでもNISAを利用した投資ができるようになります。
制度の併用が可能に
これまでは、一般NISAとつみたてNISAのどちらかを選ばなければいけない制度でした。改正により、現行のつみたてNISAの機能と一般NISAの機能を同時に利用できるようになります。
非課税期間の無期限化
これまでは、一般NISAは5年間、つみたてNISAは20年間の非課税期間が設けられていました。また、非課税期間が終了するタイミングで、引き続き非課税で運用したい場合、翌年の非課税枠を使った手続き(ロールオーバー)が必要でした。改正により、非課税期間が無期限となるため、より長期的な投資計画を立てることができます。
毎年の非課税投資額が360万円に拡大
これまでは、一般NISAは年120万円まで、つみたてNISAは年40万円まで購入可能でした。改正により、つみたて投資枠が年120万円(現行のつみたてNISAの3倍)、成長投資枠が年240万円(現行の一般NISAの2倍)になります。つみたて投資枠と成長投資枠を併用することで、年最大360万まで非課税投資が可能です。
最大利用可能額1,800万円の設定
これまでは、非課税枠を利用して購入した商品を売却すると、再びその非課税枠を利用することができませんでした。改正により、1,800万円の「非課税保有限度額」が設定され、非課税枠を利用して購入した商品を売却した場合、空いた非課税枠は次年度以降に年間投資枠の範囲内で再び利用できます。ただし、非課税保有限度額1,800万円のうち、成長投資枠の上限は1,200万円です。
これからの株式市場と投資判断について
株式市場は、日本のインフレ率が欧米並みに上昇しない限り、比較的良い市場環境が続くと考えられます。ただし、ロシアとウクライナの戦争の激化や新型コロナウイルスの再燃などによっては、株価は大きく変動する可能性があります。そのため、今後の株式市場については、不透明な要素が多く、慎重な観察と分析が必要です。投資家自身がリスクとリターンを考え、慎重に投資判断を行うことが求められます。
その一方で、日銀の資金循環統計によると、2022年12月末時点の日本の金融資産は2023兆円と過去最高を更新しました。このうち、個人金融資産は1,941兆円で、全体の96.4%を占めました。個人金融資産の内訳は、現金・預金が1,100兆円、株式等が196兆円、投資信託が86兆円、保険契約等が558兆円、その他が191兆円となっています。
日本では、預貯金が50%以上を占める一方、米国では、株式や債券・投資信託等が50%以上占めています。日本の預貯金の一部が株式等に流れるだけでも、株式市場がより活気を取り戻すことになります。
また、貯蓄から負債を差し引いた純貯蓄額を計算してみると、日本のシニア世代が他の世代を圧倒しており、特に60代以上は平均して2000万円以上の貯蓄を有しています。これは、日本人の資産形成が長期間にわたって少しずつ形成していくのではなく、退職金の受取り、遺産の相続、生命保険の満期保険金の受取りなど、50代後半から60代の短期間で金融資産を集中的に受け取ることによって、一気に形成する場合が多いことを示唆しています。
【参考資料】 資産承継オンライン https://fudosan-tax.net/financial/20221024-2/
シルバー世代の方は、「増やす力」だけではなく、「守る力」や「使う力」にシフトした生活をしていくことが大切です。家のリフォームや車、海外旅行など、人生を豊かにするためのお金は計画的に使いましょう。私は、車や旅行、食事などに最もお金をかけています。
人生100年時代をどのように生きたいかは人によって異なり、資産形成の形も大きく違ってきます。自分の資産を使い切るか子孫に残したいかによっても異なりますので、自分の信念を貫いてください。
私は、老後にお金の心配のいらない豊かな生活を目指して、資産形成を進めてきました。今後は、私が実践してきた日本個別株の具体的な選び方などについてお話ししていきます。