動脈硬化は私たちの健康に深刻な影響を及ぼす病気として広く知られており、特に心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。これらの病気は生命に直結する危険性が高く、特にシニア世代において年齢とともに発症リスクが増加していく特徴があります。
一方、足の動脈硬化は、下肢の血管に特異的に起こる動脈硬化性の病変です。具体的には、足の動脈の血管壁が徐々に硬くなり、内腔が狭くなったり完全に詰まったりすることで、足への血液供給が著しく低下し、様々な健康上の問題を引き起こす深刻な病気です。
足の動脈硬化は医学的には閉塞性動脈硬化症(ASO:Arteriosclerosis Obliterans)と呼ばれ、下肢の主要な動脈に進行性の狭窄や閉塞が生じる疾患として定義されています。この病気は、特に高齢者において見られる重要な血管疾患の一つです。

幸いなことに、足の動脈硬化は早期発見・早期治療により、症状の進行を抑制し、生活の質を維持することが可能です。本記事では、この病気の具体的な原因、特徴的な症状、そして最新の治療方法などについて、詳しく説明していきたいと思います。
主な原因
- 高血圧: 血圧が継続的に高い状態が続くと、血管壁への負担が増加し、血管の弾力性が失われ、動脈硬化が進行しやすくなります。特に収縮期血圧が140mmHg以上の状態が続くと、リスクが高まります。
- 高脂血症: 血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が基準値を超えて高い状態が続くと、これらの脂質が血管内壁に沈着し、プラークと呼ばれる硬化性病変を形成して動脈硬化を引き起こします。
- 糖尿病: 継続的な高血糖により血管内皮細胞が損傷を受け、血管壁の修復機能も低下するため、動脈硬化が急速に進行します。特にHbA1cが7.0%以上の場合は注意が必要です。
- 喫煙: タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素が血管内皮を損傷させ、血液の粘度も上昇させるため、動脈硬化の進行を著しく促進します。
- 高齢: 加齢により血管は、壁のコラーゲンやエラスチンが変性し、血管の弾力性が失われることで、自然と動脈硬化が進行しやすくなります。
- その他: 慢性腎臓病、高尿酸血症、運動不足、ストレス、遺伝的要因なども動脈硬化の進行に関与します。

動脈硬化は様々な病気の要因となるため、その予防には生活習慣の見直しが不可欠ですね。
症状
- 間欠性跛行: 血流不足により、数百メートル程度歩くと足が痛くなり、休息を取ると痛みが和らぐ特徴的な症状です。
- 冷感: 血流低下により、特に足先が冷たく感じます。靴下を履いても改善しにくく、夜間に悪化する傾向があります。
- しびれ: 足の血流が悪くなることで、特に足先にピリピリとした痺れや違和感が生じます。歩行時に症状が強くなることがあります。
- 安静時痛: 症状が進行すると、安静時でも足に持続的な痛みを感じるようになり、特に夜間に痛みが強くなります。
- 潰瘍: 重症化すると足に傷ができやすくなり、血流不足により治癒が遅延します。特に足先や踵に発生しやすい症状です。
- 壊疽: 最も重症な状態で、足の組織が血液不足により壊死し、黒く変色します。この状態では足の切断が必要となる場合があります。

病状は1から6までの段階に大別され、数字が大きいほど重症度が高くなります。このため、できるだけ早期に治療を開始することが重要ですね。
診断
問診
医師は患者さんの症状(詳細や発症時期、悪化する状況など)、生活習慣(喫煙・運動など)、さらに家族歴について丁寧に聞き取りを行います。
診察
足の脈(大腿動脈、膝窩動脈、足背動脈など)を触診して血流を確認します。また、足の色調変化、温度、むくみの有無、皮膚の状態、歩行状態なども詳しく観察します。
検査
- ABI検査: 上腕と足首の血圧比(足関節上腕指数)を測定し、動脈硬化の程度を客観的に評価します。数値が0.9以下の場合は閉塞性動脈硬化症が疑われます。
- 血管超音波検査: 非侵襲的な検査で、血管の狭窄や閉塞の程度、血流速度、プラークの性状を詳しく確認できます。経過観察に適しており、繰り返し検査が可能です。
- 血管造影: X線透視下で血管内に造影剤を注入し、血管の走行や狭窄・閉塞部位を正確に把握します。治療方針の決定に重要な情報を提供する精密検査であり、必要に応じてCTやMRIによる血管造影も実施します。

治療
薬物療法
血管を広げる薬剤、血圧降下薬、抗血小板薬、スタチン系薬剤(コレステロール低下薬)、抗凝固薬などを症状や重症度に応じて使用します。これらの薬剤は血流を改善し、血栓の形成を予防する効果があります。
カテーテル治療
局所麻酔下で血管内にカテーテルを挿入し、狭窄部位をバルーンで拡張したり、ステントと呼ばれる金属製の網状の筒を留置して血管を広げます。比較的低侵襲な治療法で、入院期間も短く、高齢者にも適しています。
外科手術
重症例や広範囲の病変がある場合には、人工血管やご自身の静脈を用いたバイパス手術を行います。閉塞部位を迂回する新しい血行路を作ることで、足への血流を改善させます。また、血栓除去術なども状況に応じて検討されます。
予 防
この病気の予防には、日常的な生活習慣の改善が不可欠です。動脈硬化の進行を防ぐには、継続的な健康管理と適切な生活習慣の実践が重要です。以下の点に特に注意して、毎日の生活習慣を見直しましょう。
生活習慣の改善
- 禁煙:喫煙は血管を著しく損傷させるため、完全な禁煙が必要です。
- バランスの取れた食事:野菜を十分に摂取し、塩分と脂肪分を控えめにした食事を心がけましょう。
- 適度な運動:ウォーキングや水泳などの無理のない有酸素運動を定期的に行いましょう。
- 血圧、血糖値、脂質の管理:定期的に数値をチェックし、医師の指示に従って適切に管理しましょう。
定期的な健康診断
年に1回は必ず健康診断を受け、早期発見・早期治療につなげましょう。特に危険因子をお持ちの方は、より頻繁な検査をおすすめします。
間違いやすい病気
急性動脈閉塞症
下肢動脈の病気には、動脈硬化が徐々に進行する閉塞性動脈硬化症と、突然発症する急性動脈閉塞症があります。急性動脈閉塞症は、主に心房細動などの不整脈によって心臓内で形成された血栓が下肢動脈に流れ込み、血管を閉塞させる緊急性の高い病気です。

これに対し、エコノミークラス症候群は、足や下半身で形成された血栓が血流に乗って肺動脈に詰まり、胸の痛み、呼吸困難、循環不全などを引き起こす病気です。正式名称は「肺血栓塞栓症」(はいけっせんそくせんしょう)といいます。

おわりに
足の動脈硬化は放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。足の壊死や切断、最悪の場合は生命の危険も伴います。そのため、足の痛み、しびれ、冷感、歩行時の痛みなどの症状が現れたら、すぐに血管外科や循環器内科を受診してください。
動脈硬化は代表的な生活習慣病です。予防には適切な生活習慣の確立が不可欠です。バランスの良い食事、定期的な運動、禁煙、十分な休養を心がけましょう。また、年1回の健康診断で動脈硬化の進行をチェックすることで、早期発見・早期治療が可能になります。
動脈硬化は全身に深刻な影響を及ぼす危険な病態です。血管内腔が狭くなることで血流が悪化し、心臓では致命的な心筋梗塞を、脳では重度の後遺症を残す脳梗塞を引き起こす可能性があります。また、腎臓やその他の重要臓器でも深刻な機能障害を引き起こすことがあります。
足の動脈硬化では、歩行障害、慢性的な痛み、皮膚潰瘍などが起こる可能性があり、特に初期段階での治療が重要です。高齢者は特に進行しやすいため、注意深い観察と予防が欠かせません。一度発症すると長期的な管理が必要となる場合が多くあります。

日常的な生活習慣の見直しによる予防と、定期検査による早期発見・適切な治療の継続が、予後改善の鍵となりますね。
【 参考情報 】

