私が介護を経験したのは、40代半ばから60代半ばまでの約20年間でした。その間、私が最も苦しんだのは、状況が徐々に悪化し、終わりが見えなかったことです。子育ては手間が減り、喜びが増えるのに対して、介護では手間が増え、精神的な負担も大きくなります。それでも、家族や介護サービスを効果的に利用することで、何とか乗り切ることができました。
一方、来年には人口最多の「団塊の世代」が全員75歳以上になります。その子供たち、つまり団塊ジュニアの世代が今後、介護を経験することが予想されます。その際、最も懸念される一つに「介護うつ」が挙げられます。
「介護うつ」は、介護が原因で発症する「うつ症状」を指します。これは、高齢者の介護に伴うストレスが蓄積し発生するもので、予防法を理解し、生活に取り入れることが重要です。ここでは、介護うつになりやすい人の特徴と、それにどう対応すべきかについて説明します。
介護は心身に大きな負担を与えます。特に長期間介護が必要な場合、その負担は増大します。その結果、介護うつを発症するリスクが高まる可能性があります。この介護うつは、介護者自身の健康を脅かすだけでなく、介護を受ける人のケアの質も低下させるため、早期の予防と対策が必要です。
特 徴
介護うつの発症には、個人の性格や考え方、介護状況、および周囲の環境など、多様な要因が関与しています。以下に、介護うつになりやすい人の特徴をいくつか挙げます。
責任感が強い・完璧主義
責任感の強い人は、他人に頼ることなく自力で問題を解決しようとする傾向があります。そのため、疲労が蓄積している状況でも一人で問題を抱え込みがちです。「自分がやらなければならない」という強い思いから、完璧な結果を求めて自分を追い詰めてしまうことがあります。
真面目で几帳面
仕事やプライベートにおいて真面目で几帳面な人は、介護にも全力を尽くし、自分を追い込む傾向があります。自分の行動や努力が十分でないと感じ、結果として疲労が溜まり、身体的、精神的なストレスを無視しがちです。このような人は自分の健康を害する可能性があるため、自身の状態にも注意を払うことが重要です。
経済的に余裕がない
経済的な不安を抱えると、介護問題だけでなく、生活全体に対する見方も悲観的になります。介護の負担が大きくなると、心身の健康に影響を及ぼすことがあります。また、介護費用は経済的な負担となり、これがさらに精神的なストレスを引き起こす可能性があります。
社会とのつながりが少ない
家族や友人との交流が少ないと、孤独感が深まる場合があります。この孤独感は日常生活に影響を与え、自分だけで解決するのが難しい問題を抱え込む傾向があります。特に、介護に関する不安や悩みが増大しており、その重荷を一人で背負ってしまいます。
※ なお、過去にうつ病などの精神疾患を経験したことがある人は、再びうつ状態に陥りやすい傾向がありますので、特に注意が必要です。
対応方法
介護うつを予防するためには、自分自身のケアが重要です。ここでは、具体的な対策をいくつか示します。
私が20年以上にわたり継続的に介護を行なっていく中で実践した効果的な対応方法を紹介しますね。
休息をしっかりとる
介護は物理的、精神的に大きな負担を伴います。これは一日中、場合によっては深夜まで続くこともあります。そのため、十分な睡眠を確保することが非常に重要です。睡眠は体を休息させ、エネルギーを再充電し、次の日への準備を行います。自分自身の健康とウェルビーイングを維持するために、これらの重要性を忘れないでください。
運動をする
継続したウオーキングの運動は非常に効果的で、ストレス解消や気分転換に大いに貢献します。心地よい疲労感によって、心のストレスが軽減され、新しい視点で物事を見ることが可能になります。これは、日常生活の仕事や介護などのストレスからの解放、そして心身の健康維持において、重要な要素です。
趣味を持つ
介護は非常に重要な任務ですが、自分自身の時間を確保することも同様に大切です。自分の時間を持つことで、心身の健康を保つことが容易になります。読書や趣味の時間などの自己ケアは、ストレスを軽減し、自身の健康と幸せを維持するための重要な要素です。
家族で役割を分担する
問題、悩み、または不安を一人で抱え込む必要はありません。それらを家族と共有し、深く対話することが大切です。十分な話し合いを通じて、良い解決策が見つかる可能性があります。家族との会話を通じて役割を明確にし、全員が問題解決に協力できる状況を作りましょう。
介護サービスを利用する
家族の協力が得られない状況や、家族が遠くに住んでいて頻繁に助けを求めることが難しい場合など、介護サービスを積極的に利用することをお勧めします。介護サービスは専門スタッフによって提供されるため、介護の質を確保しつつ、あなた自身の負担を大幅に軽減することができます。
専門家へ相談する
介護うつは、経済的な不安や家族からの支援不足など、様々な要因で引き起こされます。これらの問題に直面していると感じたら、一人で抱え込まずに、介護相談窓口など、専門的なアドバイスを提供する場所に相談しましょう。それにより、具体的な解決策を見つけることができます。
周囲の人の対応方法
家族や友人などで「介護うつ」になりやすい人を見かけた場合、以下のような点に注意し、適切に接することが重要です。
- 話を聞き、共感する: 相手の悩みや不安をじっくりと聞いてあげましょう。
- 無理強いは避ける: 介護を無理強いすることは避けましょう。
- 家事などのサポートを提供する: 介護以外の負担を軽減してあげることが助けになります。
- 専門医に相談する: 介護うつの症状が重い場合、専門医に相談することを勧めましょう。
介護の困難さは、経験した人でなければ理解しきれませんね。ただ、相手の話を聞くだけでも、その人にとっては大いに助けになりますよ。
介護うつは早期発見・早期治療が重要です。介護者自身だけでなく、周囲の人も介護うつの兆候に注意し、適切な対応を心掛けることが大切です。
最後に
2025年に団塊の世代が75歳以上になると、「認知症高齢者の将来推計」によると、認知症患者の数は約700万人に達すると予想されています。日本人の平均寿命や健康寿命を考慮すると、介護が必要な人の数は急増するでしょう。
一方で、介護人材の不足が明らかになりつつあります。この傾向が続けば、必要な介護サービスを十分に受けられない人が増える可能性があります。
この状況を鑑みて、シニア世代が介護体制の事前準備をすることが求められています。まず、家族内で話し合い、介護の役割分担を明確にすることが重要です。次に、利用できる介護サービスを事前に調査し、利用可能なサービスを確認しておくことが必要です。さらに、一人暮らしの高齢者には、AIを使った見守りロボットなどの利用も推奨されます。
このような事前準備は、介護離職や介護うつの予防にもつながります。
シニア世代の一人一人がこれらの事情を自覚し、健康寿命を延ばすことで「人生100年時代」をより豊かに過ごせることを切に願っています。
【 参考情報 】